圓窓五百噺ダイジェスト(め行)

          TOP

妾馬(めかうま)

圓窓五百噺ダイジェスト 31 [妾馬(めかうま)]

 妹のお鶴が、お駕篭でご通行中の赤井御門守の目に止まり、支度金をいただいてお
屋敷に女中奉公に上がり、殿のお手がついて懐妊。目出たく男の子を産み、お世取り
をもうける。
 お鶴の願いにより、兄の八五郎がお屋敷にお呼び出しになり、殿と対面することに
なった。
 このことを大家が八五郎の母親(おきん)に知らせに行くが、八五郎は吉原へでも
遊びに行っているようでいない。
 母親は「ほとんど家にはいません。いただいた支度金があることをいいことに遊び
呆けて、お金がなくなると馬(借金取り)を連れて戻ってくるんですよ」
 大家もあきれ果てたが、昼過ぎ、八五郎が「馬を連れて戻ったら、おふくろに『早
く大家さんのとこへ行け』って。『吉原へなんぞ行くんじゃないよ』って」と大家の
家にやってきた。
 大家にいろいろ言われて、勝手の違ったお屋敷に上がった八五郎のドタバタぶりに
回りも大いに戸惑う。
 大家に言葉は丁寧にと言われているので、なんでも上におの字を付け、しまいに奉
るを付けて喋る。「即答をぶて」という三太夫の言葉にそっぽうをぶてと聞き間違え
て、三太夫をぽかりと殴る。殿に「朋友に話すように」と言われ、ざっくばらんな話
しをするが、殿にはなかなか通じない。
 そのうちに酒と料理が並び、ご老女のお酌でご馳走になる。
 ふと、お鶴が坐っているのに気が付いた。
 八五郎は涙ながらに、母親の言った「孫ができても、身分が違うから見ることも抱
くこともできない」という言葉を伝える。
 八五郎も「おふくろに言ってやったよ、『俺がおふくろの分まで赤ん坊をあやして
くるから』って」とまた涙ぐむ。
 赤ん坊を抱かせてもらい、あやして泣かしてしまうが、酔った勢いで殿に都々逸を
聞かせて喜ばれる。
 肉親愛に感動した殿は「愛い(うい)やつじゃ。士分に取り立ててつかわす」と言
う。
 感極まった八五郎、立ち上がった途端に足を滑らして倒れて、そのまま高鼾で寝て
しまう。
 大勢に担がれて、他の部屋に移され、一夜を明かす。
 翌朝、目を覚ました八五郎、約束通りに刀を大小貰い受け、供を付けてもらって馬
に乗って長屋に帰ってきた。
 驚いた大家はおきんさんに知らせに行った。
「八五郎が馬と一緒に戻ってきたぞ」
「やっぱり、吉原へ行ってたんだ」

(圓窓のひとこと備考)
 本来の落ちは、
「馬に乗った八五郎、馬がいきなり走り出したんで、その首っ玉にしがみついて悲鳴
をあげた。これを見た人が「どこへ行くんだ?」「俺にはわからねえ。前に回って馬
に聞いてくれ」
 というのである。
 まったくもって[鰻屋]と同じ落ちであることに、不満の持っていきようがない。
(笑)
 で、本文の落ちはあたしの作。
 ”八五郎が遊びから馬を連れて戻ってきている”ということをしっかりと仕込んで
おけば落ちになるはずと、確信を持って作ったのが'70年頃かな。


 圓生の物はたいそう長い。一時間はある。しかし、落ちまで演らないため[八五郎
出世]というタイトルにしている。
 あたしも圓生以上の時間をかけて演ったこともある。もちろん、自作の落ちまで演
るし、また、あたし自身にあまり出世志向はなく、出世という言葉も好きではないの
で、[妾馬]と題した。
 母と娘、母と息子、兄妹の家族愛が流れていて、古典落語の中では異色な名作であ
ろう。
2002・4・5 UP