NG落語拾遺集 トップページ

NG落語拾遺集 


 NG落語拾遺集 2

『 ヒゲを剃ったのに なんてぇこった! 』

題名:[ぞろぞろ]
演者:六代  三遊亭 圓窓
時節:02(平成14)年3月9日
場所:魚てい 釜石とびっきり寄席


 その日、寝不足のせいか、圓窓はやることなすこと調子が悪かった。
 宅急便で先着していた落語グッズの数が合わない。梱包するとき、数を間違えてい
たようだ。それに、踊りの伴奏のテープが鞄の中に入ってない。昨夜、机の上に出し
ておいたのに。日帰りのつもりでいたら、帰路のチケットを見ると、翌日の日付がう
ってある。
 あるつもり、入れたつもりがみなその通りになってないのだ。
 こういう日は連鎖反応的に高座の噺もとちり勝ちになるものだ。
 身を引き締めて[ぞろぞろ]に入った。


   稲荷信仰のおかげだろう。
   茶店の天井からぶる下がっている一足のわらじを、客が買おうとして引っ張る
  たびに、新しいわらじが一足、ぞろぞろっと出てくる
   次の客も、まあ次の客も、引くたびに新しいわらじが、ぞろぞろっ。
   このぞろぞろわらじが評判となって、店はえらい繁盛。
   この茶店の前の流行らない床屋が真似をして「わらじ同様、床屋もぞろぞろ繁
  盛しますように」と稲荷にお参りをした。
   親方が店に戻ると珍しく客がいるではないか。
   その客の顔をツーッとあたると、あとから新しい髭が、ぞろぞろっ!


  ところが……


   袖で目撃した窓輝の証言


「やぁ、びっくりしましたよ。
 いえ、今日はいやなことが続いているんで、相当に気を引き締めた高座でした。マ
クラから、ずぅーっとよかったんですよ。
 あたしも、ほっとしました。
 師匠も演ってて『やれ、安心』という気になったんでしょうが、瞬間、肝心の落ち
のところで気がゆるんだんでしょう、
『その客の顔をツーッとあたると、あとから新しいわらじが、ぞろぞろっ!』
 って、やっちゃったんですよ。


 あたしが『ああぁっ』たってもう駄目ですよ。落ちですし、師匠はとっとと高座を
下りてきましたよ。
 師匠はたぶんショックでしょうし、あたしは機嫌でもとろうと『落ちを改良したん
ですか?』って言ったら、『間違ったんだよ。そんなことわかんなくて、どうすんだ
っ』って、こっちが怒られましたよ。
 でも、『顔からわらじがぞろぞろ』って、映画の”千と千尋の神隠し”以上ですよ
ね。
 この落ちでドイツへ行って演れば、なんか、賞を貰えるんじゃないですか」







NG落語拾遺集 1

『そそっかしいのは演者だ!』


題名:[粗忽のマクラ]
演者: 先代 古今亭志ん馬
時節: 昭和?年?
場所: 人形町末広


 その時、高座の演者はこう言うつもりだった……


   ある男が道を歩いてると、向こうから老年の男がきた。
   どっかで、見たことのある人だ…。
   向こうもニコニコと笑っている。こっちを知ってるようだ…。
   しかし、どういう人だか…。誰だったか…。思い出さない…。
   知らんぷりも、できない…。
  「どうも、どちらさまで…?」
  「ばかッ。お前の親父だ!」


ところが……
 

  客席の目撃者の証言


 まことにポピュラーな小咄で、寄席へ通っていると耳にタコができるほど聞かされ
ます。
 志ん馬さんもよく演ってるので、末広の入りの薄い客席を前にして、つい、惰性に
走ったのか、肝心のサゲの一言を見事に間違ってしまったんです。
「ばかッ。お前の亭主だ!」
 って。
 あたしは瞬間、心臓が「ドキン!」と音をたてたのを思えてますよ。
 反応ゼロの客席に、志ん馬さんも間違ったことに気づいたんでしょう。あわてて右
手を横に大きく振って、
「違うッ、違うッ」
 この一言で、客席だけではなく、楽屋も大爆笑。しばらく鳴り止まずってもんです
よ。
 志ん馬さんも一緒になって笑ってました。
「向こうから来た人が女だったら、『お前の亭主だ』と言っても筋は通る。間違いに
はならない」
 と、連れと話したことを今でも昨日のように覚えてますよ。
 その志ん馬さんも亡くなりましたね、あたしより若いのに……。