圓窓五百噺ダイジェスト(は行)

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萩褒め(はぎほめ)/半分垢(はんぶんあか)

圓窓五百噺ダイジェスト 73 [萩褒め(はぎほめ)]

 与太郎が叔父の左兵衛宅の庭の萩の花を褒めに行くことになった。そこで父親は与
太郎に「七重八重九重とこそ思いしに十重咲き出づる萩の花かな」という和歌を教え
る。ところが、与太郎はとても覚えきれない、と言うので、父親が同行することにな
った。
 叔父宅で「萩の花を褒めたいから縁側へ行きたい」と与太郎が叔父に言うと、父親
は「あたしはハバカリに」と席を立つ。父親はしばらくして縁側の叔父の後ろに回り、
叔父にはわからないように肩越しに仕草で和歌を与太郎に伝えた。
 指を七本、八本示して、「七重八重」
 指を九本示して、戸を開ける仕草、脇の下をくすぐる仕草をして、「九重とこそ」
 なにかを重そうに持って、ばったりと倒れて死ぬ仕草で、「思いしに」
 指を十本しめして、拳骨をパッと開いて見せて、「十重咲き出づる」
 庭の萩の花を指差して、首を傾げて、「萩の花かな」


 ところが、与太郎は正しく言えず、「七本、八本」「九本とコチョコチョコチョ」
「重い、ばったり」「十本、くるくるパア」「ハゲ頭かな」などと滅茶苦茶に言い出
す。
 しかし、叔父はなんとか「七重八重九重とこそ思いしに十重咲き出づる萩の花かな」
を理解して与太郎を褒める。
 父親は自分の役目を終えてほっとして、今し方ハバカリから出てきた風を装って、
「与太郎がなにか言いましたかな?」と叔父に訊く。
「萩の花を褒めてくれた。しかも、三十一文字(みそひともじ)で」
「与太郎がですか? 家ではそんなことはしたことありませんが……」
 そこで、叔父は「じゃぁ、与太郎や。お父っつぁんに今の歌を聞かせてやんな」と
言い出す。
 困った与太郎は父親を叔父の真後ろに座らせて、また仕草を送ってもらい、それを
見て「七重八重……、九重とこそ……、思いしに……、十重咲き出づる……、萩の花
かな……」と歌を始めて、なんとか言い終える。
 叔父は改めて与太郎を褒めた。「いい和歌が一つできた」
 すると、父親が「いいえ、馬鹿の一つ覚えでございます」


(圓窓のひとこと備考)
 狂言の「萩大名」をあたしが落語にアレンジした。狂言では歌の文句を太郎冠者が
扇の骨を開いて見せると、大名が「七本、八本」「パラリ」などと言い間違える。と
ころが、落語家の持つ高座扇子は小さくて、骨の数は十五本もあり、開いて見せても
観客には効果はないので、指で示すことにした。もちろん、落ちはあたしの考案した
もの。
2006・7・30 UP




圓窓五百噺ダイジェスト 20 [半分垢(はんぶんあか)]

 贔屓の関取が上方巡業から帰って来たというので、町内の金さんが訪れる。
 関取は奥で休んでいるので、女房が応対に出る。
「関取はまた大きくなって帰って来たでしょうね」と言うと、女房は大いに喜んで、
「声は割れ鐘、顔は大屋根の上、戸障子を外して這って入った。顔は四斗樽、目は炭
団。飯は一石ペロリ。道中、牛を三匹踏み潰した」と調子に乗って答える。
 客が帰った後、起きて来た関取は女房に「こっちから『大きい、大きい』と言うも
のではない。帰りの東海道の吉原の茶店で『富士山が高くて立派だ』と褒めたところ、
茶店の娘が『朝夕見ておりますと、さのみ大きく見えません。半分は雪でございます』
と卑下して言った。それを聞いて改めて富士山を見ると、前より一層大きく見えた。
卑下するのも自慢の内という。やたらに『大きい、大きい』と自慢するものではない」
とたしなめた。
 そこへ、金さんから聞いたという熊さんが訪れる。
 女房、今度は「声は虫の息、お顔は煎餅の欠けら、目は砂っ粒。飯は一粒出したら
半分残しました」などと小さくなったという返事。
 関取は恥ずかしくなって顔を出すと、客が見て「おかみさん、関取はこんなに大き
いじゃありませんか」「いいえ、半分は垢でございます」


[半分垢]の関連は、評判の落語会/単発の落語会/五百席達成記念落語会
2001・5・31 UP