圓窓五百噺ダイジェスト(ふ行)

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武助馬(ぶすけうま)/普段の袴(ふだんのはかま)/文違い(ふみちがい)

圓窓五百噺ダイジェスト 27 [武助馬(ぶすけうま)]

 武助は呉服屋の奉公人だったが、役者になりたくて芝居の一座に身を投ずる。
 五年後、その店に挨拶に来た。
 所属の中村勘袋一座がこの町で芝居を打つことになったので、見に来てくださいと
のこと。
「役は?」
「一ノ谷嫩軍記(いちのたに・ふたばぐんき)の馬の後ろ足です」
「たとえ馬の足でも役者は役者だ」
と、主人は大いに喜んで、店の者、出入りの者、親類縁者を集めて総見することに
した。
 いよいよ当日。客席から大勢で武助に「待ってました! 馬の足!」と声をかける。
 後ろ足の武助は嬉しくなって、舞台を勝手に跳んだりはねたり。しまいに片足を高
く持ち上げて「ひ、ひひーん」といなないた。
 客席の主人はあきれ返って「前足が鳴くのなら我慢するが、後ろ足が鳴くやつがあ
るか!」と怒鳴った。

武助は馬から首を出して「最前、前足がおならをしました」


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2001・7・5 UP




圓窓五百噺ダイジェスト 24 [普段の袴(ふだんのはかま)]

 上野広小路近くの書画骨董品の店へ入ってきたのが、馴染み客の武士。
 煙草を吸いながら鶴の絵掛け軸のを見て「良い鶴じゃ」と感心をする。
 店主「文晁(ぶんちょう)かと心得ますが、落款がございません」
 武士「文晁でなければかほどには描けまい。良い鶴じゃ、う〜〜ん」
 武士が煙管を咥えて感心すると、雁首の火玉がふわっと落ちて袴を焦がした。
 店主があわてると、武士は落ち着いて「心配いたすな。これはいささか普段の袴で
ある」と言い残して帰って行く。
 これを店の前で見ていた八っつぁんが「俺も真似てやってやろう」と、大家から無
理矢理に袴を借りて店にやってくる。
 文晁を文鳥と思い込んで店主とトンチンカンなやりとりをした挙句、やっと、煙草
を咥えて掛け軸を見ながら感心をして息を吹き込むが、煙管が詰まっていて何度やっ
ても火玉が出ない。
 いらいらしながら大きくプーッと吹き込むと、雁首から火玉が勢いよく飛び出し、
自分の頭へ落ちる。
 店主「火玉がおつむりの上へ」
 武士「心配するねぇ。普段の頭だ」
2001・6・27 UP




圓窓五百噺ダイジェスト 147[文違い(ふみちがい)]

 内藤新宿の女郎のお杉は、夢中になって通ってきている建具屋の職人の半次に「義
理の父親に金をせがまれて困っている。二十両ほど工面しておくれ」に手紙を出して
ある。
 その半次が「なんとか十両はできた」と持ってきた。
 そこへ「甲府から角蔵さんがいらっしゃいました」との知らせがあったので、その
部屋へ向った。角蔵も惚れて通ってきている田舎者で、お杉は「おっかさんが具合が
悪くて、人参という二十両もする薬を飲ませなくてはならない。なんとかしておくれ」
と手紙を出していた。
 角蔵は「十五両ならば」とお杉に渡した。
 お杉はそれを受け取って部屋を出ると、裏梯子を降りて奥の小部屋に入った。
 そこには、芳三郎という年頃三十二、三歳。なかなかいい男。目が悪いとみえて、
紅絹(もみ)の布でときどき目を押さえている。
「芳さん。やっと二十五両だけど、できたよ」
「すまねぇな。なにしろこの目は真珠をいう高価な薬を付けなくては直らねぇという
んだ」
「だから、この二十五両で早く直しておくれ」
「じゃ、このあとすぐに医者へ行くから」
 お杉は芳三郎を送り出して、元の小部屋へ戻ってみると、芳三郎の座っていたとこ
ろに手紙が落ちている。読んでみると、芳三郎が小筆という女から貰った手紙のよう
だ。
「わたくしのために、新宿のお杉という女郎を眼病と偽り、金子の工面をしてくださ
るとのこと。芳さまは小筆にとって神さま仏さまにて御座候」
 手紙を読んだお杉は「騙された」と泣き伏してしまった。
 一方、部屋でお杉の戻ってくるのを待っている半次は、煙草を切らせたので捜そう
と火鉢の引き出しを開けた。と、手紙が入っている。読んでみると、お杉が芳三郎と
いう男から受け取った手紙のようだ。「逢いに行きたいが、このところ眼病を患い、
真珠という薬を付けなくてはならず、
 その代金の二十五両は馴染み客の一人、建具屋の半次という男をお伊達上げ、巻き
上げるとこのと。お杉さまは芳三郎にとって神さま仏さまにて御座候」
 手紙を読んだ半次は「騙された」と体を震わせた。
 そこへお杉が涙を拭きながら入ってきた。「部屋の中をかき回して、なにをしてん
だい? やめておくれ」
 半次も激怒して「よくも隠していやがったな。おめぇに色男がいることは知ってい
るんだ」
「こっちだって、色女がいることは知っているんだ」
「おかげで、おれは十両、かたられちまったよ」
「こっちは、二十五両、かたられちまったよ」
 怒鳴り合っているうちに、半次はお杉の顔を張った。お杉は「さぁ、殺せ!」と絶
叫した。
 この物音を聞いた角蔵は若い衆を呼んで言った。
「向こうの部屋へ行って、こう言ってとめておくれ。『金を出したのは色男ではねぇ。
お杉のおっかさんの薬代として恵んでやっただけの田舎者だって』。いや、待て。そ
う言うと、わしが色男だってぇことがばれるちまって困るなぁ」
「どうも恐れ入ります」
「しかし、聞いていると、十両とか二十五両とか。わしの出したのは十五両だが、お
杉が回っているうちに額が増えたかなぁ。金は天下の回り物じゃの」
「いいえ、喧嘩の回り物でございましょう」

(圓窓のひとこと備考)
 狐と狸の化かし合いという人間関係を描いた名作の廓噺。登場人物の心理描写が絡
み合っているので、実力のある演者でないと出来ない。
2007.4.16 UP