圓窓五百噺ダイジェスト(わ行)

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和歌三神(わかさんじん)

圓窓五百噺ダイジェスト 203[和歌三神(わかさんじん)]

 両国に住む狂歌師の隅田川風(すみだのかわかぜ)は嫌がる下男の権助を連れて向
島へ雪見に出掛けた。
 やってくると、土手の下の木の陰で乞食が三人、屯(たむろ)している。
 狂歌師が声を掛けると、乞食の一人は「これでもこの三人、元は大店(おおだな)
の倅。道楽を重ねたがために勘当を受け、落ちるところまで落ちて、今ではこの向島
の土手の下で…。今、三人の楽しみは狂歌でございます」と言う。
 狂歌師が「お名前と歌を聞かせてください」と問うと、「わたくしは向島の土手の
馬糞を浚っている康と申します。人呼んで糞屋康秀(ふんやのやすひで)。吹くから
に冬も薄着で忍ぶれば かむ鼻風邪に鼻血の出るらん」
 次の一人が「あたくしは富くじに凝って身代をつぶしました。夜分になりますと、
あそこに大きな寮の垣根の下で丸くなって寝ますので、誰いうとなく垣根本人丸(か
きねのもとひとまる)。富くじの外れてばかり左前 冷え冷えし夜を人丸く寝る」
 もう一人が「あたくしは呉服屋の跡取りでしたが、勘当されて今では継(つ)ぎ接
(は)ぎだらけ、穴だらけのこの装(なり)で。そこで名前も接穴業平(はぎあなの
なりひら)。夢破る意見も聞かず去った今 金くれないに首括るとは」
 狂歌師は嬉しくなって「百人一首からの本歌取り。お三人は雲の上の和歌三神です
な」
 乞食が「いいえ。薦(こも)の上の馬鹿三人です」

(圓窓のひとこと備考)
 風流な噺だが、汚らしくなる部分もあるために最近では演り手はない。その点を改
良して脚色してみた。

《原話》「茶のこもち」の内〈釣〉1774(安永3年)江戸版。
《掲載本》 「古典落語 五巻 お店ばなし(角川文庫)燕路(6) 1974(昭和49)刊」
     「明治大正落語集成 二巻(講談社)禽語楼小さん(2) 1980(昭和55)刊」
     「圓窓高座本(まるまど文庫)圓窓(6)」
《演者》 禽語楼小さん(2) 柳枝(8)  燕路(6) 圓窓(6)
《落ちの要素》 思い違い 地口
2007.6.11 UP